お前が笑う、俺の目の前で。

微笑んで俺を見つめるその瞳。

まるで太陽のような、お前。

俺にないもの全てをもって、俺の弟として生まれたお前。



そう、俺はお前の兄として今までお前の前に立ち、お前を守ってきたつもりだった。

けれど…。

お前はそんな俺の中の一番深い大切な部分に何時の間にか、大きな位置を占めている。



気がつかなかった思い。

誤魔化していた? いや、そうじゃない。

ただあまりに近くにいすぎて、それが当然になっていたんだ。



幼い日々からお前の成長の全てを見守ってきた。

この感情は、弟に対するそれにすりかわり、いとおしく思うこの衝動を、

違うものと思っていた。

そうではないと気づいてからも…、お前との関係を変えるつもりはなかった。

これからもこのままで…。

そう思っていた。

お前の笑顔が見れるなら…。













涙を流して俺を見つめるお前。

いつものきつい瞳が涙で濡れて揺れている。

俺とさほどもかわらぬ背で、俺と変わらぬ体系で、

兄弟だというのにまるで違う印象を与えるそんなお前が、

俺の目の前で涙を流している。


なんということはない兄弟喧嘩だったはず…。

俺につっかかって、感情が高ぶって、口論になって…。

俺の言葉に返す言葉もなくて、そのまま諭されて収まる、

そんないつものパターンだと思っていた。



「アニキには俺の気持ちなんてわかんねー!」



思い切りつっかかって、どなり散らして足を踏み鳴らして。

睨みつけられるものと思っていた瞳から流れ落ちる涙。

かみしめるくちびるが震えている。


握り締めた指が白くて…。



「なんでもわかったよーな顔、すんな!!」



強い光を放つお前の瞳が、俺だけを見つめて、

俺になにを言おうとしている…?

俺になにを求めている?。


涙もろくて、すくに感情が高ぶってしまうお前の涙。

慣れていたハズだった。

だけど…。

そんなお前の涙に俺は、こんなにも動揺してしまう。

もしかしたら…と期待してしまう。


とうの昔に封印したつもりの、心の奥にあるこの思い。

お前の思いとそれは、同じだったというのだろうか。



体に幾筋もの電流が走るような、ぴりぴりした感触。

寒気が走るように体が震える。

唇が……震える。



涙を流すな啓介。

そんな顔をしたら俺は…。




指を伸ばして流れる涙をすくいあげ、揺れる瞳を覗き込む。


きつく睨む瞳が、俺のそれに伝えることばを知りたくて…。

お前のほんとうを知りたくて…。



唇をかみしめながら、俺から視線をはずさないお前の強い意志。

への字口になりながら必至に俺を見つめる揺れる瞳。

そんなお前も、失う恐怖に思いを隠して、

今まで俺を見つめていたというのだろうか。


ばかな…。



「っ」

俺の手を振りはらい、ごしごしと目をこする啓介。

お前を守るために、こうしてここにいると、そう思っていたんだ。

お前が幸せになるなら俺は…と。



ひきかえせなくなる…。

このぬくもりを、俺は…手放せなくなる。



「好きなんだよっアニキのこと!」


ふるえる唇でちいさく、それだけを吐き出したお前。

それきり背を向けたお前。



…言葉が俺をつらぬいた…。






「……俺もだ…啓介」




考えるよりも先に体がお前を抱きしめていた。

言葉が口をついていた。

俺という体が素直にお前を求めていた。

押しとどめていた感情はこんなにも強くお前を欲していた。



ぴくりと震えるお前の体の感触、髪のにおい。

強く強く抱きしめて、俺の中に湧き上がる思いを伝えてやりたい。

こんなものじゃ、たりない…。



「愛してる、前からずっと、お前だけを」


抱きしめる腕から伝わるだろうか、何分の一かでも、俺の思いが。

伝えられるだろうか言葉が全てを…。



腕の上に落ちる熱いしずく。


ばかだな啓介…。


「…もう…ひとりで泣くな」


体のすみずみにまで広がるこの思いを伝えてやるから。

「泣くな…」


もう隠すことなく、全てをおしえてやる。

あきれるほど、そばにいてやるから…。

だから。

くちづけて…だきしめて…。


俺に愛を教えてくれた、そのぬくもりを感じさせて…。




                 Lion Heart(2001.02.11)
                 For 3000hit LIQ

                   
アニキ暴走…(汗)